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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

salience DOES matter

Raj Chetty, Adam Looney, and Kory Kroft (2008)

Salience and Taxation: Theory and Evidence

この手のペーパーは,Busse, Silva-Risso and Zettelmeyer (2006 AER)あたりを発端にあっちこっちの分野で怒濤のように生産されてきているみたいだけど(←知らなかったorz),なかなか面白い。

どういうお話しかというと,消費者は,「目に見えやすい」価格には反応しやすいけれど,「目に見えにくい」価格には反応しにくい,というもの。

ペーパーの中で実験されてるのは,税金のかけ方による消費者行動の変化。例えば,

a) スーパーの商品の値札には,外税の値段を表示して,レジで売上税を追加する

b) スーパーの商品の値札には,内税で値段を表示する

のどちらを取るかによって,消費者の需要は変化するだろうか? 同じことだけど,

c) 酒税を上げる(これは内税として小売価格に含まれる)

d) 売上税を上げる(これは外税の上昇になる)

によって,需要に変化は生じるだろうか?

このペーパーの実験によると,b)やc)では売上の減少が発生するのに対し,a)やd)では発生しない。

ということは,内税方式だと消費者はきちんと税負担を考慮に入れて行動するけれど,外税方式という目に見えない課税方式だと消費者の需要が過大になる危険があることになる。そうすると,例えば,消費税を3%から5%にあげたときに,「外税方式の表示は認めん,内税方式にしろ」って言っていた財務省の政策は,実は,消費者にゆがみのない意思決定をさせてsocial optimalityを目指すという観点からは正しかったのかもしれない。「実は」っていうのは,もちろん当時の財務省の本音は,外税にすると消費税額がストレートに見えて負担感をあおるのを避けたい,っていうことにあったと思われるからだけれども。

そうすると,次に消費税を上げるときは,内税じゃなくて外税方式にした方が,需要の刺激効果があって景気対策としてはいいかもね。GE的にどう振れるかは分からないけど。

も一つ面白いのは,家電量販店なんかでやってる「ポイント制」の機能。例えば,「10%ポイント付与」というのと「10%値引き」というのでは,後者の方が消費者にとってお得だということはよく知られているけれども,それ以外にも違いがあるということになる。つまり,販売店側から見ると,ポイント制は,①実質的な値引きの少なさ,②顧客囲い込み,という2点のメリットがあるけれども,他方で,③値引きがsalientでないために売上が低下する,というデメリットがあることになって,両者のトレードオフをどう判断するかでどちらを採用すべきかが変わることになる。

もっとも,このペーパーがそのまま日本の消費者にも通じるかは,もうちょっと考えてみる必要があるかもしれない。多くの他の国に比べると,日本人は算数,というか暗算に強い。平均的アメリカ国民の,あのしょーもない暗算能力ならsalienceが効いてくるのは分かるけれど,暗算の得意な日本人相手だと,案外salienceの効きは悪くなるかもしれないなぁ。