hopping around

~ヘタレ研究者は今日も逝く~

Manski

以前のエントリで書いたManski読みました。薄い本なので,1日あればさくっと読めます。読んでみたところを一言でまとめると:

boundsについての本になっているけれど,「boundsなんかやらない,point estimatesしかやらない!」という人――それが多分大多数だろう――を含めて全てのempiricistが一回は読んでおくべきお勧め本

と言えるんじゃないだろーか。どうしてそうかというと。

この本は,タイトル通り,identificationについての本で,「手持ちのデータから,どこまでがidentifyできて,どこからがidentifyできないのか」というのを詰めていく,というアプローチをとる。そうすると,普通は(正確には,この本が問題にしている状況では),identifyできない部分っていうのが結構あって,そこをどうしましょうか,という話になります。

で,普通の人だと,そこでいくつかのassumptionをおいて,ぽんっとpoint estimatesに飛んでしまうのだけれど,Manskiのユニークなところは,そんな強すぎるassumptionにいきなり頼るのではなく――そうするとassumption次第で全然違う結論も出るし――,まずはestimatesの取りうる範囲=boundsを確定していこうというところから始めるわけです。そして,boundsのidentifyの仕方も,まずは,何のassumptionもいらないnon parametricなものから始まって(→Manski曰く"worst case"),少しずつassumptionを増やしていくとどういう風にboundsが狭まっていくかが見えてくる。

こういう訳で,boundsアプローチをやろうという人には,当然の必読文献になるんだろうけれど,そうでない人にとっても,このような方向からidentificationの問題を考えると,手持ちのデータで言えてるのはどこまでであって,そこから先の結論を出すために自分がどんなassumptionをおいていて,それが他のassumptionと比べてどれだけplausibleなのかということについて真剣に考え直すチャンスが与えられることになる。

この意味で,実証の道を目指そうという人は,みんなこのくらいは読んどくべきぢゃないか,と思うわけです。

読みやすさという点でも,最後まで1回もpartial derivativeもintegralも出てこないという,econometricsにしては稀有な――確かにstatisticやestimationはやらないでidentificationだけに集中すればintegrationなしにはなる――本。とはいえ,partial derivativeもintegralも理解しないで実証をやることは絶対にお勧めしないけれど。あ,あと,数学的にはその程度でいいけれど,いわゆる"first-year" probability theory程度の知識は必要です。

1カ所だけ不満な点を挙げると,yの数式フォントが良くなくて,目が慣れるまでの最初の20頁くらいは,gammaに見えてしまう。別のフォント使ってくれないかな...