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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

trading activity and HIV infection

なかなかおもろい:

Routes of Infection: Exports and HIV Incidence in Sub-Saharan Africa

by Emily Oster

「貿易が盛んになると,HIV感染率が上がる」

古来,疫病の大流行は貿易活動によってもたらされたところが多いわけだけど,それは現代のアフリカのHIVにおいても当てはまるらしい。経済モデルとしては,

- 男性が貿易活動(≒旅)に従事すると,その間,不特定の相手と性交渉を持つ蓋然性が高まり,HIV感染確率が上がる

- その男性のパートナー女性も,その間(パートナー不在の間),不特定の相手と性交渉を持つ蓋然性が高まり,HIV感染確率が上がる

というモデルの推定で,だいたい,貿易量が倍になるとHIV感染率は4倍になる位の勢いだ,ということ。

1990年代にウガンダHIV感染率が大きく減少したのは,一般には,「ABC」というHIV予防教育(←Abstain, Be faithful, and use Condomsの略)の勝利だといわれているけれど,実はそれは過大評価で,コーヒー貿易の変動だけでHIV感染率の減少分の30-60%も説明できてしまう。

という筋で,「通説にチャレンジする」という点では,missing womenほどまでは行かないものの,なかなか楽しめる。

ただ,もちろんこれは,短期のモデルだから,長期的にもそうなるかは分からない。貿易活動が盛んになって経済が発展し,value of life (human capital)が上昇すれば,HIV予防行動に取り組むインセンティヴが上昇するから,HIV感染は減っていく可能性が高い。

もひとつは,テクニカルな点でも,なかなかすごいことやってる。このタイプの研究をする際に困るのは,「アフリカのHIV感染率のデータが,いい加減で信用できない」というところで,そこをクリアするために,気合いで感染率を推定してるのです。

どうやるかっていうと,HIV感染率は分からないけれど,死亡数は分かる。だから,死亡数から逆算してHIV感染率を推定してしまおう,というチャレンジ。もちろん,HIVに感染してから死ぬまでの期間は人によって違うから,そこは,system of equationsを使って推定する,ということになるわけです。

なので,アイデア自体は比較的単純に見えるんだけど,計量的には結構大変なことをやってる。