hopping around

~ヘタレ研究者は今日も逝く~

contempt of court

本日午後3時前,都市ガスが復旧して,ライフラインは完全に復旧しました。ガス復旧してくれた静岡(中遠ガス)の人,ありがとー。

それはさておき。1月の終わりの日弁連でのセミナーでしゃべったことのうち,たぶんほかで再録されないだろうなー,と思われるポイントをメモっておこう:

それはどこか,っていうと,仮処分命令違反と裁判所侮辱罪。プリンスホテル日教組事件判決の後,日経の法務欄なんかで,

アメリカだったら裁判所の命令に違反したら裁判所侮辱罪が発動するから,裁判所の命令には強い拘束力があるのに対し,日本の場合には,裁判所の発した仮処分に違反しても損害賠償しかない。それって問題だから,日本でもアメリカのように裁判所侮辱罪を導入することを考えてはどうか

っていう方向性の論調が見られたけれど,それは日本法とアメリカ法の違いを理解してないよ,っていうストーリー。

この分野(契約違反)で日本法とアメリカ法とで違うところはいろいろあるんだけれど,エンフォースという観点からはまず,アメリカ法の契約違反の救済の原則は損害賠償damagesであって,特定履行specific performanceは例外的にしか認められない,っていうところ。UCC改正によって,当事者が契約中で特定履行が利用な可能な旨を事前に合意しておけば,裁判所は特定履行を広く命じることができるようになるけれども,そうでない限り,契約違反に対しては原則として損害賠償しか認められない。

これに対して,日本法の契約違反に対する救済方法の原則は,主従が逆。契約違反に対しては原則として強制履行できるのであって,損害賠償は,履行不能とかで強制履行できない場合の代替的な救済手段って位置づけになっている。

だとすると,プリンスホテル日教組事件のようなケースがアメリカで発生した場合,そもそも特定履行はできないことになる(ホテルの宿泊約款で,特定履行を認める旨の条項を置くことは,ほとんど考えられない。もし置いていたら,そのホテルはアホだ)。これに対し,日本法の場合には,とりあえずどんな契約でも強制履行を認めてしまうから,仮処分が出てしまう。この仮処分命令を,裁判所侮辱罪を使ってエンフォースするとなると,アメリカ法とは全然違った帰結が導かれてしまうことになる。

そして,アメリカ法が,特定履行という救済方法を常には認めず,損害賠償を原則的な救済方法としていることにはそれなりの理由がある。それは,契約の履行が社会的に見て望ましくないにもかかわらず契約が存在するが故に無理矢理履行されてしまう(しかも,当事者間の再交渉がうまく機能せず,契約の履行の回避が自主的に選択されない)ようなケースが発生することを避けるため(もちろん,日本法もその辺を全く考えていないわけではなくて,「社会通念上履行不能」なときには強制履行を命じない)。

これに対し,日本法では強制履行が原則的救済方法だから,その全てに裁判所侮辱罪で強いエンフォース力を認めてしまうと,契約が過剰に履行されてしまうという望ましくない事態が発生することになる。

こう考えてくると,「アメリカと同じように」裁判所侮辱罪を日本に導入すべきだ,という主張は,契約違反の救済方法の違いを無視した乱暴な議論だ,ってことになる。

# ちなみに,プリンスホテル日教組事件の地裁判決or高裁判決の賠償額が最適だったかどうかは,いろいろと計算が難しそうだなぁ,という感じ。