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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

on externality

たとえば,次のような事例をどう考えるか:

ある河川の近くに,自然堤防があった。この自然堤防を含む土地の所有者Xが,自己の土地の上に太陽光発電設備を設置し,売電して利益を上げることを考えた。Xは,太陽光発電業者のすすめに従い,太陽光発電装置の設置には邪魔となる自然堤防を除去した上で,太陽光発電装置を設置した。

これに対し,周辺住民Yらは,自然堤防が除去されると,水害が発生しやすくなるとして,この自然堤防の除去に反対していた。また,Yらは,地方公共団体に対して,除去された自然堤防に代わる人工の堤防の設置を要請した。

地方公共団体が,Yらの要請に理由があると認め,新たな堤防の建設事業計画を立てていたが,計画段階で大雨特別警報に該当する豪雨によって河川の水位が増し,Xが除去した自然堤防の付近から決壊して,Yらは自宅等が水没するという被害を受けた。

YらはXに対して,損害の補填を求めることができるか。

(とりあえず,Xによる自然堤防の除去と,決壊との間の因果関係は問題なく立証できたという前提で)

法律構成にはいろいろと面倒くさいところがありそうだけれど――自然堤防は,Xの土地にもともと付属していたものなので――,経済学的には割とすっきりしている。

Xによる自然堤防除去という行為は,X自身にとって売電による利益という私的便益をもたらすのに対し,周辺住民にとっては,水害リスクの増加という外部性=社会的費用を発生させている。Xに,社会的に最適な意思決定をするインセンティヴを与えるためには,この外部性をXに内部化させなければならない。そのためには,自然堤防除去によって(←前述のように,この「よって」は立証できるものと仮定している)水害リスクが増加した分をXに負担させることが必要であり,Xに,Yらに対する損害(マージナルなリスク増加分だと100%ではないが)賠償債務を負担させることが望ましくなる。

この自然堤防が,Xの土地に大昔から付着していたものである,ということは,この際,経済学的にはあまり関係ない。それも,土地価格に反映されているはずのものだからだ。

ではさて,法学的にはどうなるんだろーか。