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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

NOVA

もう古い情報になりつつあるかもしれないけれど,英会話学校の解約時の受講料精算規定に関する最高裁判例について一言をば。まぁ,この判決をまだ読んでおらず,2月に判例体系の編集作業時に下級審裁判例を見ていて思ったことなので,最高裁はちょっと違っているかもしれないけれど。

下級審判決で,NOVA側が負けているのを読んでいて,「ひどい判決だなぁ」と思っていたら,4月3日にその下級審判決の流れのままで最高裁が出ました。ちょwwwwwwwwwww ありえんwwwwwww てな感じです。その後も,この判決を批判するような新聞記事とかでないので,何か不思議。消費者保護団体とかが,「消費者の利益を無視した不当判決だ」とかいう声明を出してもいいくらいの判決じゃないかと思うんですけどねぇ。

事案の内容を簡単に復習しておくと(といっても,上に書いたように,最高裁自体は読んでないので,事実認定が違っているかもしれないけれど),単純化した数値例(メカニズムの本質は変わらない)で書くと,次のような感じだったと記憶してます:

- 1回の受講料を毎回払っていると,1回につき1000円

- 10回分の受講料を一括払いにすると,1回につき800円に割り引き(合計8000円)

- 20回分の受講料を一括払いにすると,1回につき600円に割り引き(合計1万2000円)

- 受講生Xさんは,20回分の受講料1万2000円を一括払いしてNOVAに通い始めたが,10回通ったところで,NOVAはあわないと感じて,中途解約することにした。受講料はいくら返ってくるか?

- NOVAの主張=10回まで通った分の受講料を仮に一括払いしていたとすると8000円になるから,1万2000円から8000円を差し引いた4000円だけ返還すればOK

- Xさんの主張=20回分の受講料一括払いの単価は600円だから,600円x10=6000円返還しなければいけない

で,裁判所はXさんの主張を容れたわけです。まぢかよ。NOVAの主張が,完全分割払いにした場合の1回1000円x10=1万円を差し引いた2000円しか返還しない,というものだったらNOVAが負けても不思議はないわけですが,そうではない。

このルールの下では,Xさんのような受講生は,自分がNOVAに長く通い続けるかどうかにかかわらず,とりあえず,一番割引率の高い一括購入をした上で,途中で気に入らなくなったら解約することになる。そういう行動が当然に見込まれるので,NOVAの側は,こういった一括購入割引プランを受講生に提供できなくなるわけです。結局,裁判所の言っていることは,「大量一括購入者対象の割引は禁止する」ということになるわけで,「ちょwwwwwwwww ありえんwwwwwwwwwwww」と。

大量一括購入割引ダメってのは,結構実害大きいんぢゃないかと思うんですけどねぇ。例えば,携帯電話会社の割引プランの中には,一定期間の契約維持を前提として割引をしてくれるものがありますが,あれも危ない。保険契約の中には,保険料の一括支払による割引をしているものがありますが,あれも危ない。特定商取引法の適用対象では全然ないけれど,その精神としては,ヤマダ電機のように大量の購買力を基礎にした安売り商法もよろしくないってことなんでしょうか。

そもそも大量一括購入割引には,逆選択の問題をシグナリングゲームを使って緩和するとか,合理性があると思うんですが,そういった利点を禁止して逆選択なんかの発生する状況に逆戻りさせて,消費者にその負担を押しつけるような判決はいかがなものか。