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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

ex post bargaining

昨日の日経記事から。

ベルギーのデクシア銀、日本の自治体への投融資残高1兆円台に

 自治体向け融資で世界最大手の仏ベルギー系デクシア・クレディ・ローカル銀行の日本の自治体向け投融資残高が、2月末に初めて1兆円を突破した。日本での営業は2006年12月に始めたばかりで、邦銀が手掛けない超長期融資で取引を急拡大している。

 2月末の東京支店の自治体向け投融資残高は、1兆226億円だった。内訳は貸し出しが27自治体向けに3823億円、債券購入が41自治体向けに6403億円だった。

 自治体の債務残高は約200兆円。国が地方自治体への貸し出しを減らし、自治体の新規の資金調達に占める民間資金の割合は6割超にまで高まっている。(06日 07:00)

直感的に考えると,海外の銀行の方が,円建てによる為替リスクがある分,貸し出しをしにくそうにも思える(ユーロ建てで起債しているのならその問題はないけれど)のに,何で「邦銀が手がけない超長期融資」に外銀が進出できるんだろうか?

「邦銀よりも外銀の方が,「超長期」のリスクを評価するために必要な金融技術に優れているから」というのが,一つ考えられる答えだけれど,それだとあまり面白くない。

もうちょっと理論的に面白そうな答えは,「超長期」であることに基づく信用リスクの発現の仕方が,外銀と邦銀とでは異なる,というもの。どういうことかというと,5年とか10年とかならともかく,「超長期」(これが何年くらいか知らないけど,30年とか50年?)の融資だと,信用リスクが現実化してしまう蓋然性がかなり高くなる(←夕張市とかね)。その場合,邦銀が融資をしていると,政治家とか地域社会とかのプレッシャーによって,地方自治体再建交渉のテーブルで譲歩を迫られることがあるのかもしれない(債権放棄とか)。これに対し,海外に所在していてアクセスが難しい債権者との間の再建交渉では,債権者側が譲歩しなくてすむことになる蓋然性が高くなるから(←金融契約理論でよくある,債権者側がex postなbargaining powerを持つ設定),安心して貸し出せる。

もっとも,話はここでは終わらない。

このときに地方自治体が支払っている利率は,適正なんだろうか? この点は,こういった「超長期」貸出市場の競争度によりそうな感じ。この市場で競争が機能しているのなら,こういったex postなsurplusの(不)移転を読み込んだ適正な価格付けがなされる。これに対し,上の記事のデクシア銀が唯一のプレーヤだとすると――もしくは,地方自治体が上のモデルで述べたようなex post bargaining powerを考慮に入れないで契約してるとすると――,高い利率を支払いすぎていて,地方自治体からデクシア銀に利益移転が発生してるかもしれない。

というわけで,他の銀行ガンバレ。

あんまり関係ないけど,懐かしいMVを見つけたので,リンクをば。メロディーラインが破綻してることの多いJewelにしては珍しく普通なfoolish games: