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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

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実は(?)「支払決済法」は,結構まじめに調べた上で書いてるぜ,シリーズその1。(続きがあるかどうかは不明...)

128ページに説明してる裏書禁止裏書(手15条2項)は,法の文言通りであれば,裏書人は直接の被裏書人に対してのみ担保責任を負い,以後の被裏書人に対しては担保責任を負わない。けれども,文言に反して,以後の被裏書人に対しても担保責任を負い,ただ抗弁を対抗されるだけだ,っていう説が結構有力らしい(鈴木=前田280ページ注二←伊沢・田中誠大隅=河本・前田が引用されてる)。

けれども,この有力説は,かなり高い確率でドイツ学説の読み間違いによって昔の日本の学者が勝手に編み出した考え方なので,採るべきではない。

で,探ってみるためには,この「有力説」っていうのが,どういう風に生まれたのか遡ってみる。

鈴木=前田の引用文献の中で一番古いのは,伊沢せんせ。伊沢・該当箇所を見てみると,そこでの引用文献は,薬師寺・法学志林38巻4号585頁と,Staub-Stranz。時代的に見ておそらく,後者のStaub-Stranzが元ネタだろう。

というわけで,Staub-Stranzを探す。見つけたのは,1934年の第13版で,もちろん鬚文字... あぁ,久しぶりに鬚文字を読むことになるよ(基本的に鬚文字は,普通の文字と同じ速度ですらすら読めるので問題ないんだけど)。

で,該当箇所を見てみる。すると

- 当時,裏書禁止裏書をした裏書人に対する遡求権を単独で譲渡できない(裏書禁止手形に近い?),という単独説が1個あったけれど,それは,できる,という方が圧倒的通説。

- すると,裏書禁止裏書をした裏書人に対する遡求権が,事後の裏書譲渡で自動的に移るかについては,"In dem Indossanment wird ohne weiteres eine Abtretung des Rueckgriffanspruchs zu erblicken sein"となってる。この点は,手形法の前のWechselordnung時代でBernsteinとGruenhutがそのような説であったのに対し,Staub-Stranzの第12版(つまりWO時代)では違う説を採っていたようで,Staub-Stranzは,手形法の施行を機に改説したみたい。

というわけで,ドイツの学説は,以後の被裏書人に対して担保責任を負うと考えているわけではなくて,遡求権を単独で譲渡できる(普通の指名債権譲渡の方法で),じゃあ,裏書と一緒にその遡求権が自動的に譲渡されるって考えていいのか悪いのか,っていうところで争いがあったことになる。

で,こういったドイツ学説の議論が,なぜか日本に輸入されるとき(あるいはそれ以降?)にねじ曲がって,「裏書禁止裏書は,人的抗弁を切断せずに対抗できるようにするためのものだ」っていう風にすり替わってしまったんだと推測される。

というところまで調べた上で,僕らのテキストは,文言通りの解釈を示した上で,「有力説」は括弧書きで加筆する,という形にしてあるわけです。

ちゃんちゃん。