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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

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『支払決済法』解題シリーズ(いきなりシリーズ名が変わったw)・その2。

シリーズ名を変えたのは,この教科書が今までの教科書と違う点を解説する方が,読者にとって便利かと。

で,今回は,この教科書のおそらく一番大きな転換点である,「無因」の概念について。

普通のテキストだと,「無因」にはいろんな意味があって,

- 原因債権と手形債権とを別個に観念できること

- 手形債権は原因債権の影響を受けないこと

などなどが書いてある。そして,「手形は無因証券である」なんて記述が書いてあることが多い。

『支払決済法』の大きな転換は,こういった「無因」という概念――特に後者の意味――をもっと限定的に使おう,というところにある。

キーポイントは,第1章に書いた,「決済機関」「決済の当事者」の区別で,「無因」が問題になるのは,決済機関が関わる場合に限定されるだろう,ということ。

決済機関が関わる事務は,原因関係について調査をせずに大量・迅速に処理をしていくことに大きな意義があって,その事務処理を遅延させることは,決済機関にとってのみならず,迅速な決済が実現されなくなってしまう当該支払手段の利用者にとっても望ましくない。だから,大量迅速のデータ処理が必要になる決済機関の事務処理については,原因関係から切り離した「無因」が要請される。

これに対して,決済の当事者については,無因的に構成する必要性はあまりない。むしろ,手形関係を無因的に構成しても,どうせ原因関係で不当利得が発生することになるから,有因的に処理する方が合理的になる。そうすると,この場面において,無因的に処理するか,有因的に処理するかは,どのようなリスク配分が効率的か,という観点から回答を出していけばよい訳で,「手形は無因証券である」なんて無駄に一般的な言明をする必要性はない(むしろ有害)。

で,こういう考え方が納得しやすくするために,電子マネーや銀行振込をやって,決済機関をめぐる「無因」を身に染みつかせてから,その後で初めて手形小切手の「無因」に入る,という本書の構成が効いているのですね。フフフ

ちなみに,こういう風に見ていくと,手形権利移転有因論と無因論の価値判断の違いも見えてくる。この論点について,無因論を採る典型例は,江頭せんせだけど,彼が念頭に置いているスタンバイ信用状の独立性が問題になる局面というのは,まさに,信用状発行銀行が決済機関として登場し,しかもそういったものとして機能することを期待されているから,無因論に行き着く。

これに対して,判例なんかは,そういった決済機関としての属性ではなく,決済の当事者としての属性に着目しているから,有因的な結論(無因+権利乱用)に行き着く。