hopping around

~ヘタレ研究者は今日も逝く~

the purpose of inheritance rule

先日,非嫡出子の相続分規定に関する最高裁判決が出たけれども,そもそも相続分規定がどんな目的を果たすべきなのか,という点に関する分析をあまり聞かないのが,謎。

もちろん,現行民法上では,相続分の規定は,その1/2が遺留分に直結するので,相続人の権利に大きな影響を与える規定であり,その限りにおいて,憲法14条の問題になり得ることはよく分かる。

でも,遺留分との関係を除くと,相続分の定めは,デフォルトルールを設定しているに過ぎない。被相続人が遺言をすれば,それが遺留分を侵害しない限り,民法上の相続分の定めよりも遺言による指定が優先する。このため,相続分の定めが適用されるのは,被相続人が遺言による相続分の指定をしなかったケースだけだ。

相続分の定めがデフォルトルールだっていうことなら,通常の契約法の場合と同じく,デフォルトルールに関する分析が使える。デフォルトルールの定め方については,よく知られているように,基本的に2つ。majority defaultとpenalty defaultだ。

majority defaultは,契約を書くのにコストがかかる(このケースだと,遺言を書くのに金銭的時間的コストがかかるとか,心理的葛藤を招くとか)ことを前提に,社会の中の多数派が希望するようなデフォルトルールを置いておけば,そのような多数派による契約作成コストを節約できる,というもの。

他方,penalty defaultは,当事者に不都合なデフォルトルールを用意しておけば,当事者がデフォルトを回避するような特約を結ぶだろう,というもの。

このようなデフォルトルールの設定には,2つのトレードオフがある。1つは,社会全体で発生する契約コスト(取引費用)。もう1つは,被相続人の意思を実現できるかどうか,というコスト。両者は必ずしも同じような構造を持っておらず,ときにはトレードオフの関係にもなるので,どっち(あるいはどのようなミックス)を民法規定の目的に設定するんだ,というので最適なルールは違いうる。

たとえば,社会全体の契約コストを最小化したい,って考えるのなら,被相続人の希望する相続分指定の分布の仕方を調べて,分布が一番大きく山になっているところ(割と対照的な分布なら)をデフォルトに設定するのがいい。

けれども,このようなデフォルトが,被相続人の意思の実現,という点からすると最適かというと,そうではない。なぜなら,このデフォルトだと,デフォルトの上下の一定幅の被相続人については,遺言を書くことによって得られる自己の意思の実現という利益が,遺言を書くコストが上回るから,遺言を書かずにデフォルトルールに委ね,結果として,被相続人の意思と実際の相続の結果との間に乖離が発生することになる。被相続人の分布の一番分厚いところでこれが発生するから,社会全体で,被相続人の意思が実現されない割合は,かなり高くなってしまうわけだ。

これに対し,被相続人の意思の実現を民法規定の目的に設定するのであれば,極端なデフォルトを設定するのがいい。たとえば,非嫡出子は嫡出子の10倍の相続分があるとか,あるいは,その逆とか。このようなデフォルトであれば,被相続人の大部分の意思とは大きく異なるデフォルトが設定されていることになるから,被相続人にとっては,遺言を書く便益が遺言を書くコストを上回り,遺言によって自らの意思を実現できる。そして,こういう極端なデフォルトであれば,その周囲の被相続人の意思の分布はとても薄いから,自らの意思が実現されない被相続人の割合は非常に小さくなる。

もちろん,こんなデフォルトでは,社会全体に発生する取引費用は,相当なものになる。

なので,いったいどのようなデフォルトルールがいいのか,っていう点は,民法規定の目的として何を設定するのかによって左右されうるはずなんだけど,なぜかこういった視点からの分析がなされない不思議...