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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

indemnification for wrong payment

『支払決済法』解題シリーズ・その3。

今回のお題は,「支払免責」。

手形法40条3項には支払免責についての規定があって,振出人が無権利者に対して支払をしたとしても,一定の場合には免責される旨が規定されている。これに対し,小切手法には,手形法40条3項に該当する規定が存在しない。これはどうしてだろう?

ほとんどの教科書・基本書には,小切手法には条文がないけれども,手形法40条3項を類推適用して,小切手についても同様の条件で支払免責を認めるべき,と書いてある。

けれども,そんな解釈をしていいんだろうか? 小切手法も手形法も,国際条約(ウィーン条約)として,多くの専門家たちの合議の結果,成立した法ルールだ。そんな法ルールに,「本来であれば規定すべきだったのに規定し忘れてしまった条文」なんてものがそう簡単に入り込んでいるなんておかしい(ちなみに,日本の会社法なんかは,立法担当者が突貫工事で作ったものなので立法ミスはある。議員立法はさらにひどいw)。特に,支払免責なんて,支払人にとっては,無権限者への支払のリスクの分配という点でかなり中核的なポイントなのだから,そこについて規定を置き忘れるなんてことは,ちょっと常識では考えられない。

だとすると,小切手法に手形法40条3項に相当する規定がないのは,意図的なものであって,小切手に手形法40条3項を類推適用するのはおかしい――そういう趣旨で小切手法は作られていない――,ということになる。

小切手法に,支払免責の規定がない理由は,本書の第1章に書いた分析枠組みでいうと,小切手は,手形と比べて,「ネットワーク・システム」的な要素の強い支払手段であることによる。

つまり,手形は,少なくとも手形法上は,誰でも自由に利用できる支払手段になっている(もちろん,現在の日本の実務では,銀行に当座預金口座を開設して統一手形用紙を交付してもらわないと事実上使えない)。これに対し,小切手は,小切手法上,銀行を支払人として振り出すことが要求されている。このため,手形の場合には,理念上,誰でも振出人(=支払人)になれるのに対して,小切手の場合には,支払人になれるのは銀行に限定されており,かつ,その支払人と振出人の間で支払委託に関する契約が結ばれていることが,法律上前提とされている。

だとすれば,小切手の場合に,支払人が支払委託を履行した場合に振出人との関係でどのような条件で免責されるのかは,支払委託契約において定められているはずだ(日本だと,銀行取引約定書とか当座勘定規定)。そして,どのような条件で免責を認めることが望ましいのかは,各国の銀行実務・商取引の実務などによって変わってくるべきものだ。そうすると,支払免責の条件を,小切手法(国際条約)において一律に規定してしまうのではなく,個別の国・銀行ごとに,契約によって調整させる方が妥当だろう,と考えて,小切手法は「あえて」支払免責に関する規定を置いていないわけだ。

したがって,小切手における支払免責については,手形法40条3項を類推適用するのではなく,当座勘定規定に従って処理する,というのが小切手法の趣旨に即した解決方法になる。

こういう本書の説明の仕方に対して,日本のほとんどの教科書・基本書のように,「手形法40条3項を類推適用する」ということになると,当座勘定規定や銀行取引約定書においてどのような免責条件(手形法40条3項より厳しい場合も緩い場合もあり得る)を定めようとも,それをオーバーライドする形で強行法規的に手形法40条3項を類推適用していくべきだ,ということになる。

もちろん,そういった強行法規的な解釈が成り立たないわけではないし,一定の合理性があることも理解できるけれども,果たして,そういった教科書・基本書が,そこまで考えて「類推適用」って書いているかどうかは,大いに疑問だ。