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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

causality

たとえば,「暴力的な映画(たとえばダークナイトとか)は暴力を助長するか?」という問題があったとする。この「因果関係」を検証するためには,どうすればいいだろうか?

一番基本的な因果関係の検証の仕方は,次のようなRCTだ(a la Rubin causality model):

1. 被験者を,暴力的な映画を見るグループ(treatment group)と見ないグループ(control group)にランダムに割り振る

2. treatment groupに対して,暴力的な映画を見せる

3. treatment groupとcontrol groupとで,暴力が増えたかどうかを観察する

つまり,暴力的な映画を見たこと「によって」暴力が増えた,ということが言えないと,因果関係があるとは言えないわけだ。

とすると,暴力的な映画を見た人が暴力をした,という事実をもってしては,因果関係があるとは言えないことは明らかだ。

なぜなら,この事実は,RCTの手続のうち,1.のところの「treatment/controlのランダムな割当」の条件を満たしていない。つまり,ここに言う「暴力的な映画を見た人」というのは,その人の事前の属性にかかわらずランダムに割り当てられて暴力的な映画を見た人ではなく,「暴力的な映画を見たいと思って,自分でそれを見ることを選択した人」に過ぎないからだ。

だとすると,暴力的な映画を見た人が暴力をしたという事実は,元々暴力をふるう傾向の強い人が暴力的な映画を見ることを選択しただけであって,暴力的な映画を見ること「によって」暴力行為が引き起こされた,という関係にはない可能性が高い。

この効果は,自己選択効果とかスクリーニング効果と呼ばれるもので,因果関係とは全くの別物。

そして,暴力的な映画について,暴力行為への因果関係はなく,むしろ自己選択やスクリーニング効果の方が中心だということになると,政策的なインプリケーションは,暴力的な映画を排除することではなくてむしろ,暴力的な映画を奨励すべきだ,というものにする方がもっともらしい。

以前,「法セミとじて経セミひらこう<『法と経済学』から見た憲法民法>」法学セミナー2008年10月号の中で紹介した実証研究に,「暴力的な映画を上映すると暴力が減る」というものがあったけれども,これはまさに,この効果の強さを示すものだといえる。つまり,元々暴力をふるう傾向のある人は,暴力的な映画を見ようと見まいと暴力をふるう(因果関係はない)。むしろ,そういった人に対して暴力的な映画が提供されることで,暴力をふるう時間がそがれたり,現実に暴力をふるう代わりの満足が得られたりするので,現実に引き起こされる暴力が減る,というわけだ。

※ 以上のお話しは,「暴力」のところを他のいろんなものに取り替えても成立します