hopping around

~ヘタレ研究者は今日も逝く~

probabilistic effect and causation

先日,

アメリカのたばこ訴訟なんかで,肺がんになる原因ってたばこだけじゃなくて他の原因もいろいろあるはずなのに,何で因果関係が肯定できるの? たばこが肺がんになる確率を高めるのは確かだけれども,でも,一人一人の患者が,直接にたばこによって肺がんになったかどうかまでは分からないでしょ。

っていう相談を受けたのだけれども。

僕は,アメリカのたばこ訴訟について詳しく調べたことはないのだけれど,想像できるものの一つは,次のようなメカニズムだ:

法学における普通の因果関係っていうのは,確かに,「あるか・ないか」っていう極端な判断枠組みなので,たとえば民法で言えば「証拠の優越」という閾値(たとえば50%の蓋然性)をクリアしないと,因果関係あり,って認定してくれない。そうすると,一人一人の被害者(である可能性のある人(以下同じ))を分析して,一人一人については,たばこが原因となっている確率の立証が50%未満までしかできなければ,全員について賠償責任なし,っていう結論になっちゃう。

でも,被害者を一人一人観察するんじゃなくて,たとえば被害者1000人とか1万人とかをグループにして観察してみよう。そうすると,その被害者のうちのどのくらいの割合が,たばこによってがんを発症したのか,そしてどのくらいの割合が,たばこ以外の原因によってがんを発症したのかを,計算することができる。ちなみに,素敵なことに,被害者のグループの規模が増えるにしたがって,数学的にこの推定のブレは小さくなる(←LLN)。こういう風に,集団ベースで考えると,「この人たちのうち,○○%は,たばこによってがんを発症した」ということが,「証拠の優越」基準によったとしても,言うことができる。

もちろん,クラスアクション(集団訴訟)には,いろいろな欠点があることは確かだけれども,こういうところをうまくクリアできるのは,クラスアクションを導入することのメリットの一つではあるよね,と。不法行為法は,不法行為の抑止を主要目的とすべきだという発想(森田=小塚NBLペーパー)からすれば,「証拠の優越」基準に満たないような確率的な損害であっても,加害者の側に内部化させないと,社会的に最適な行動を採用するインセンティヴを設定できないわけだから(※)。

※ ちなみに,不法行為法は損害填補が主要目的だ,っていう人たちは,こういうケースは,そもそも「損害」でないから,賠償させるべきでない,って考えることになるのかなぁ?