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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

fraudulent conveyance

会社分割で,分割会社に残る債権者について債権者異議手続がないのは,分割会社は,分割した事業について対価を受け入れており,財産(総額)の変動がないからだと説明される。

なので,詐害的会社分割のケースで,詐害行為取消権が行使された場合,会社分割が詐害行為に該当するというために,「対価として受け取った承継会社・新設会社株式は,非上場で価値が少ない」っていう理由を付けることが多い。とはいえ,たとえば,分割した事業の資産が1億円・負債が9900万円だったら,ネットで100万円の価値しかないので,対価が100万円しかないわけで,分割の対価を現金で受け取ったとしたら,このロジックは成り立たなくなってしまいそうだ。

でもそれって何か変だよね,と感じられるのは,詐害的会社分割が,法的整理によらずして偏頗弁済を実現するスキームだからに他ならない。じゃ,そこをクリアするためにどういう考え方ならいいんだろーか。

で,一つ簡単に思いつくのが,分割された負債の価値は,実は9900万円じゃないよね,っていう点だ。DESの評価額説(あれは債権者間の公平ではなくて株主間の公平を重視する考え方なわけだけれど)や,会計の世界で一時期話題になった「負債の時価評価」のような考え方にたてば,この額面9900万円という負債は,債権者にとっては9900万円の価値(時価)があるわけではない。たとえば,債権者にとっての時価は,10%の990万円しかないかもしれない。

もし,そういった負債の時価評価が,組織再編の場面においてなされれば,このケースだと,分割された事業の実質的な価値は,1億円-990万円=9010万円であり,それに対して100万円しか対価が支払われなかったのは詐害行為だ,と言えそうだ。

ただ,この考え方には難点があって,分割会社の立場からは,負債の時価評価によって移転された負債の価値は990万円だということが言えるかもしれないけれど,この負債は,承継会社・新設会社に移転した時点で,額面の9900万円に復活してしまう点だ。この意味で,承継会社・新設会社から見ると,交付された財産のネット価値は,9010万円ではなくて100万円に過ぎないことになる。だとすると,100万円の財産しか受け取ってないのに,9010万円も対価を支払えないよね,っていうことになる。

まぁ,そんな取引は本来合理的な当事者間で成立するはずはないわけで,だからおかしな取引ではあるのだけれども。