久々の『支払決済法』解題シリーズ。
最近,ネットバンキングでの不正振込が盛んに報道されているので,『支払決済法』の次の改訂をするときに,1パラグラフくらい加筆した方がいいかなーという気がしてきた。
加筆するとしたら,銀行振込のところの無権限者による資金移動のところで,支配領域について説明してある辺りになりそうだ。
もっとも,加筆する内容は,何か新しいことを書くわけではなくて,基本的には,『支払決済法』の中で既に説明されているアイデアを,この局面に応用するだけの話なので,読者の思考トレーニング,あるいは,この教科書を使って教える人に委ねておいてもいいわけで,その意味では余計なお節介ということになってしまうのかもしれない。
ここで考えるべきは,IDとパスワードを抜かれて不正使用されるというリスクを,誰がどの程度実効的にコントロールできるか,というお話し。
基本的には,利用者の側が,自分のPCがウイルスに感染しないように,セキュリティソフトをインストールしたり,怪しいサイトにアクセスしないように注意したりすることによってこのリスクをコントロールできるわけであり,その意味では,利用者側が第一次的にはリスク負担をすべきことになる。
もっとも,
- 銀行の側がリスクを全くコントロールできないわけではなく,IDとパスワードを抜かれにくいようにサイトのセキュリティを高めたり,あるいは,顧客に対する警告活動を展開したりすることもできる
- 顧客の側がどんなに注意しても,ウイルス被害というのが不可避的に確率的に発生する事故であるのならば,それによって発生した損失をたまたま運が悪かった顧客個人に負担させるよりも,他の顧客全体で負担する相互保険方式の方が,risk preference上,望ましいことがあり得る
という要素もあるので,利用者が全てのリスクを負担すべきということには必ずしもならない。
さらに,それとはまた別のタイプの話として,いったんIDとパスワードが抜かれてしまった後,それによる損失拡大を防ぐためには,偽造カード法における盗難カードの扱いのような形で,インセンティヴ設定をすることが望ましいだろう。
というのを,学部で担当している決済法の期末試験に出して考えさせるのもいいかなーと思ってたんだけど,もうここで答えを書いてしまったので,期末試験には出しませんw