hopping around

~ヘタレ研究者は今日も逝く~

mountain guide

登山ツアーのガイドさんの報酬が「成功報酬」,つまり,ツアーを完遂すると報酬が払われて,ツアーを中止にすると報酬が出ないようなスキームになっていると何が起きるか。

そういう報酬スキームだと,ガイドとしては,多少天候が悪かったり,ツアー参加者の中に体調不良の人が混じっていたとしても,ツアーを決行しようと判断するインセンティヴが発生する。

何でそういうインセンティヴが発生するのか,というと,この報酬スキームが,ツアー参加者に発生する効用をきちんとなぞらえるような形になっていないから。つまり,登山に伴うリスクが高い場合には,ツアーを決行するより中止した方がツアー参加者の効用が高まるわけだけれど,報酬スキームはそうなっていない。本来,ツアーを中止するという意思決定は,非常にプロフェッショナルな行為であって,そういった意思決定に対しても相応の報酬が支払われるべきなのだけれど,そうはなっていないことになる。

とすると,抑止の観点からは,少なくともそういう報酬スキームを採っていない場合には,ツアー会社に責任を負わせた方がよいことになる。そうすることによって,ツアー会社は,ガイドが適切な意思決定をするインセンティヴをもてるような報酬スキームをするインセンティヴを設定される。

もっとも,ツアー会社が,ガイドに対してそういう報酬スキームを採りたくなる気持ちも分からないではない。おそらく,登山が中止になった場合は,ツアー代金を参加者に返金する契約になっているんだろう。結局,ツアー参加者が,登山の中止というプロフェッショナルな意思決定に対して報酬を払う気がないから,惨事が発生することになるとも言えそう。

でもやっぱり,ツアー契約がそうなっているのは,ツアー参加者がお調子者ということによるのぢゃないかもしれない。仮に,天候によってツアーが中止になった場合,ツアー代金を返還しない,という特約がツアー契約に入っていたとする。もし,この特約を無効だと主張してツアー参加者が提訴したら,裁判所はどう判断するか。かなりの確率で,消費者契約法9条(違約罰の禁止)に違反するとしてこの特約を無効と判断するだろう。それを予測するツアー会社は,本当ならツアー参加者のためになるこういった特約を使えないことになる。

このシナリオが当たってるとすると,消費者契約法9条って,消費者を大量殺戮できるステキな法だったってことになっちゃうなぁ。