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~ヘタレ研究者は今日も逝く~

impossibility

債務不履行における不可抗力免責の範囲が,今度の震災で話題になりそうだけれども,ちょっと前に(=震災前の去年の年末くらい)あるところで,不可抗力免責の範囲なんて,科学技術の発展によってどんどん狭くなっていくはずだから,固定的に捉えられないよね,って話をしたことがある。

そのときに挙げた具体例は,トヨタ宮城県大衡に新しく工場作ったけれど,その時点で宮城沖が10年以内に来る確率90%って言われている状況で,九州でも四国でも北海道でも作れたはずなのに,あえて宮城に工場作るっていうことは,仮に大地震が来て製品が出荷できなくなったとしても,そのリスクは計算に入れた上で工場を造っているはずだし,一時的に出荷できなくなっても立ち直りのためのBCPをちゃんと作っていなかったら,「コントロール不可能」という意味での「不可抗力」とは言えないんじゃないか,というストーリー(まぁしかし,この話をした時点で,本当にこんな事態になるとはさすがに思ってなかったぉorz)。

別に地震に限らずとも,科学技術の発達によってさまざまなリスクの実現可能性とそれに対するコントロールの可能性っていうのはどんどん向上していくはずだから,それにともなって「不可抗力」の範囲というのは次第に狭くなっていくんじゃないだろうか,っていうことを,某所で債権法改正の話が出てきたときに言ってみた。

リスクが,「不可抗力」ではなくなるということはつまり,そのリスクがどうにもマネージできないものではなくて,何らかの方法でマネージできるものに変わってくる,ってこと。マネージするにはいろいろな方法があって,保険やデリバティヴを買う――確率と損害の予測が立てば保険・デリバティヴ商品を設計することができる――という間接的な方法もあるし,リスクの発生を回避する(地震の起こりそうな土地を避ける,耐震構造にする,さらにはいったんリスクが実現した後で,そのリスクによる損害の拡大を最小化するためのBCPを構築しておく)という直接的な方法もある。

ただ,このようなリスクのマネージには,必然的にそれなりのコストがかかる(保険やデリバティヴのプレミアム,耐震構造やBCP構築のコスト――BCPだって保険を買うのと実質的に同じ)ことを考えると,そう単純に考えていいんだろーか,っていうことが今になって気になってきた。

つまり,契約締結時に,こういったコストをかけてリスクをマネージすると言うことについて合意ができていたのであれば,これでいいんだけど,契約締結時に,こういったコストをかけてまでリスクマネージするということについて合意ができておらず,当然,契約価格にもそのコストが反映されていなかった場合にまで,不可抗力免責に該当しない旨の主張を認めることはちと問題かなー,という気がする。つまり,そういった合意がなかった場合の製品・サービスの買い手としては,保険料を払わずして後から保険金を請求しているのと同じになるから,それって変だよねぇ,っていうことになる。

で,このことをもうちょっとメタに考えると,不可抗力免責の範囲がダイナミックに変動するというルールの下では,デフォルトルールが動くことになってルールの適用と運用が面倒にならない?っていう懸念が生じかねないでもない。でも,それと同じことって,たとえば会社法423条1項の解釈で(ただしこちらはあまりデフォルトルール的に考えられてきてはいない)既に最高裁が認めていることではあるから,あんまり問題ないのかも。

閑話休題。中善並木は桜が満開。東北だと,桜は4月中旬以降に満開になるから,桜は「別れの季節」じゃなくて「新歓の季節」なんだけど,世の歌にそういうものは見つけにくい。ぐぐってみてもたとえば:

まぁたしかに,西行法師辺りから桜=別れではあるんだけれども。